貴志祐介『悪の教典』上・下巻
読書感想貴志祐介『悪の教典』上・下巻/文春文庫
高校教師の蓮見聖司は、爽やかなルックスと人心掌握に長けた弁舌で生徒・職員から絶大な人気を誇る。
そんな彼がなぜ一夜にして教え子たちを皆殺しにしたのか?
サイコホラー。
以下、含ネタバレ。
サイコパスの人って一般に、頭が良く、口が上手くて周囲の人からの人気も高いと言われていますよね。
本作の主人公、蓮見聖司もまさにそのタイプ。
生まれつき共感能力が欠落していて、害虫を駆除するように影で殺人を繰り返してはそれを何とも思っていない。
表では華々しい経歴の持ち主で、そのルクッスも相まって特に女子からの人気が高く、クラスには"親衛隊"がいるくらいです。
しかも、女子一人と親密な関係だったりする。
教職員からも「頼れるのは蓮見先生だけ」なんて言われるくらい慕われているし、
蓮見自身もそうなるように動いて、自分の地位を築くのに邪魔な人間は排除することを厭いません。
その「排除」の行為を詰み重ねて行くうちに歯車が狂って、いつしか修正が利かなくなる。
そうして"たが"が狂った状態になったときに、蓮見はどんな行動に出るのか?
十代の学生、皆殺し、などのキーワードからどうしても『バトルロワイアル』を連想せずにはいられませんでした。
私は『バトロワ』直撃世代で当時それはもうハマりましたし、
思春期に触れたものの印象は強烈で、今でも読書体験の根幹はバトロワにある
と思っています。
そういう贔屓目もありますが、悪の教典はバトロワの面白さには遠く及ばない、というのが率直な感想でした。
悪の教典の致命的なところは、何より登場人物に魅力がないことです。
分厚い上下巻で時間は十分あった筈なのに、クラスの生徒一人一人にあまりライトが当たらないので
クライマックスになっても、特定の生徒を応援したり、その死に打ちのめされることがありません。殆どの生徒がその他大勢のまま死んでしまいます。
それに加えて、殺戮の舞台が夜の学校なので、教室には鍵がかかっていて逃げ隠れする場所が殆どありません。
その為に、生徒が散り散りにならずに大きなグループで固まっているので、広がりが出ないんですね。細かくバラけないので、一人ずつのドラマが展開しないのです。
そして何より、生き残りの生徒に魅力が無い。
この生徒が生き残るんだろうなーというのは読んでると分かってしまうんですが、
同時にこの生徒が生き残っても面白くないなーという子が生き残る状態。
この点、バトロワは上手く出来ていたんだと思います。
一人一人の生き様、死に様があって読むうちに必ず好きな生徒ができますし、死んでしまったときには心底落ち込んだものです。
悪の教典では個人的に、秀才の渡会くんとアーチェリー部の子が気に入りましたが、
彼らも前半ではほぼ全く登場せず、クライマックスになっていきなり登場して活躍するので感情移入のしようがありませんでした。
蓮見の殺人も、頭が良いという設定の割には場当たり的で
バレバレのミスを繰り返して行くので、何だかイマイチ緊迫感がありません。
ある意味スリルがあるかも知れませんが…。
いろいろボロクソに書きましたが、約1000ページの長編を全く飽きずに一気に読めてしまいました。
それは貴志さんの筆力によるものだと思います。
今度は『黒い家』など評価の高い作品を読んでみたいです。
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